橘美月シリーズは女子会もので、美月さんが大学生 (アップしている段階で阪大・薬・4年) の設定なので、本編とは別に美月さんの友達を作り、大学側も絡められるようにしておきましょう。メイド服などのありそうな服はメインモデルたちはある程度着てしまったので、サブのモデルを追加する意図があります笑
I「橘美月×川床」
I「良いね。1限と2限の間の休憩時間、原田らは既に動画をアップしたことを共有、数学系の授業の教室に移動後、美月と理央を捕まえて、なぜか菊池を呼んで、美月と理央の対談動画をつくろうとしていた笑。まず畠中が司会をして、二人にミスコンに向けた意気込みを問うと、理央は1位をとる、という。美月は順位のことは考えていなくて、学園祭を盛り上げられたら良いと思っているという。他の候補について、意識している人を聞かれると、理央は美月という、学業でもミスコンでも勝ちたいと言っている。美月は、順位は気にしていないので特に誰かを意識していない、という。ここで菊池に質問が振られ、理央と美月ならどちらが良いかを聞かれ、菊池は美月と答える。理央は息を切らしながら食ってからる「なぜ」と。菊池はめんどくさがって勢いと答えた。理央が更に食って掛かろうとしたところで、動画カット。動画が終わっても、理央は菊池に絡んでなんでか詰めていた笑。菊池、はぐらかすが、分析が得意な菊池の考察だけに理央も真剣に理由を聞きたがっている笑。原田らはにやにやしながら、面白い動画になったと上機嫌笑。美優は何も言わず二人のやりとりを眺めながら、目が潤む。そして例の数学教員が入ってきて、授業の開始を宣言したタイミングで、美優が泣きだした。教員が美優にどうしたんですか?と問うとなんでもありませんと言いながら、教室から走り去った。ここで、彩音と真帆が美優を追いかける。彩音らが美優に声をかけると、美優は、また比較して逃げていると自分を責めていた。ここまでをエピソードにして。」
月曜日・1限と2限の間の休憩時間
――また始まる「原田企画」
一限終了。
学生たちが一斉に立ち上がる。
その中で、原田がスマホを高く掲げた。
「おーい!」
「もう上げたぞ!」
「早っ!」
平野が笑う。
「一限中に編集終わった。」
畠中も満足そうに頷く。
「再生数もそこそこ。」
健太は苦笑する。
「お前ら、その能力を授業に使えよ。」
「それはそれ。」
「これはこれ。」
三人は悪びれない。
そして。
原田が何か思いついたように笑った。
「次。」
「やろうぜ。」
「何を?」
健太が嫌な予感を覚える。
原田は教室の入口を指差した。
「橘さん。」
「九条さん。」
「ちょっといい?」
理央が振り返る。
「……何?」
美月も首を傾げる。
「どうしました?」
原田は満面の笑み。
「対談動画。」
「今回はこの二人。」
「え?」
理央が眉をひそめる。
「いや。」
「面白そうじゃん。」
「ライバル対談。」
平野も乗っかる。
「あと。」
「菊池。」
「来い。」
教室の隅で本を読んでいた菊池が顔を上げる。
「……俺?」
「そう。」
「コメント役。」
「めんどくさ。」
そう言いながらも来る。
撮影開始
畠中が司会役。
「はい。」
「今日は薬学部一年。」
「ミスコン注目候補二人です。」
スマホが向けられる。
「まず。」
「ミスコンに向けた意気込み。」
理央が即答した。
「優勝します。」
迷いがない。
「一位を取ります。」
その目は真っ直ぐだった。
続いて美月。
「橘さん。」
「はい。」
「意気込みは?」
美月は少し考えて。
「順位は。」
「特に考えてません。」
「え?」
畠中も思わず聞き返す。
「学園祭が盛り上がれば。」
「それで十分かなと思ってます。」
「ライブ企画もありますし。」
「そっちを成功させたいです。」
原田たちは笑う。
「この人。」
「本当に毎回これなんだよな。」
次。
「気になるライバル。」
「理央。」
「誰?」
理央は迷わない。
「橘美月。」
「学業でも。」
「ミスコンでも。」
「勝ちたいです。」
力強い。
「橘さん。」
「気になる人は?」
美月は少し考えた。
「順位は気にしてないので。」
「特に誰かを。」
「意識してはいないです。」
理央の眉がぴくっと動く。
ここで。
原田が笑う。
「じゃあ。」
「最後。」
「菊池。」
「どっち?」
教室中が菊池を見る。
菊池は少し黙る。
そして。
「橘。」
一言。
理央が固まる。
「……。」
一秒後。
「なぜ!」
勢いよく立ち上がる。
呼吸が少し荒くなる。
「なんでですか!」
「どうして!」
教室がざわつく。
菊池。
面倒そうに頭を掻く。
「勢い。」
「……は?」
「勢い。」
「いや!」
「勢いって何!」
理央は一歩近づく。
「説明してください!」
「意味が分かりません!」
菊池は本気で面倒そうだった。
「だから。」
「勢い。」
「それだけ。」
「だから!」
「何の勢いですか!」
理央の息が上がっていく。
教室のあちこちから笑い声。
原田はもう笑いを堪えられない。
「きたきた!」
平野も腹を抱える。
「やっぱこうなる!」
「はい!」
「カット!」
畠中が手を叩く。
「終了!」
しかし。
撮影が終わっても。
理央は止まらない。
「いや!」
「ちゃんと説明してください!」
「勢いって!」
「何ですか!」
菊池は歩きながら答える。
「面倒。」
「逃げないでください!」
「別に逃げてない。」
「じゃあ答えてください!」
「いや。」
「説明すると長い。」
「長くていいです!」
「今二限始まるし。」
「始まる前に!」
「……。」
菊池はため息をついた。
「また今度。」
「今度じゃなくて!」
「今日!」
「今!」
周囲は完全に笑っていた。
原田は動画を見返して満足そうに言う。
「今回も当たり。」
「再生伸びそう。」
その様子を。
少し離れた席で。
美優は静かに見ていた。
理央。
美月。
菊池。
原田たち。
皆それぞれ前へ進んでいる。
自分だけ。
止まっている。
そんな感覚が胸を締め付ける。
目が潤み始めた。
その時だった。
ガラッ。
教室の扉が開く。
例の数学担当教授が入ってくる。
教卓に立ち。
いつものように穏やかに言った。
「それでは。」
「始めましょう。」
その声を聞いた瞬間。
美優の中で張り詰めていた糸が切れた。
ぽろっ。
涙。
一滴。
二滴。
止まらない。
教授が驚く。
「川崎さん?」
「どうしました?」
美優は慌てて涙を拭く。
「……。」
「なんでも。」
「ありません。」
震える声。
立ち上がる。
そのまま。
教室を飛び出した。
「美優!」
彩音がすぐ立つ。
「待って!」
真帆も続く。
二人は迷わず教室を出た。
廊下。
人気の少ない窓際。
美優はしゃがみ込んでいた。
肩を震わせる。
彩音が隣に座る。
「美優。」
真帆も静かに背中へ手を置く。
しばらく誰も話さない。
ようやく。
美優が絞り出すように口を開いた。
「……また。」
「比べてた。」
「理央ちゃんは。」
「負けても。」
「ちゃんと前に出る。」
「美月ちゃんは。」
「自分のやることを。」
「ちゃんとやってる。」
「菊池くんも。」
「ちゃんと考えてる。」
涙が止まらない。
「私は。」
「また。」
「比較して。」
「また逃げてる。」
「また。」
「自分をかわいそうだって思って。」
「何もしてない。」
彩音は首を振る。
「違うよ。」
しかし。
美優は小さく首を横に振った。
「違わない。」
「私は。」
「また。」
「逃げようとしてる。」
その言葉には、前のような「誰かのせいにする」響きはなく、自分自身と向き合おうとしている苦しさがにじんでいた。
彩音と真帆は、すぐに励ましの言葉を重ねるのではなく、ただ美優のそばに座り続けた。
教室では二限が始まっていたが、二人にとって今優先すべきなのは授業ではなく、美優がもう一度自分の足で立ち上がろうとしている、その苦しい時間に寄り添うことだった。
I「良いね。美優が泣いているころ、講義では理央が教員のアピールにしっかり回答。教授も満足そう。難しそうな問題が出てきたとき、原田が悪乗りして菊池くんがわかると思いますと菊池に振る。理央は、腕組みしながら見せてもらおうじゃない的な態度で見ていると、菊池は無難にこなし、見かけ上理央より褒められているような様子で、理央が悔しそう笑。教員側は学生の積極参加と気分を良くして、理央が手を上げる前に美月を指名して回答してと投げ、美月はしっかり答えて教員に評価される。美月のほうが理央のときよりしっかり評価されている感じ。理央は更に悔しそう笑。理央はアピールをしたくその後積極的に発言したが、教員は学生をまんべんなく参加させようと考えているようで、理央は2回目を唯一あてられはしたが、その他工藤のような成績優秀な学生に少しずつ質問が振られていた。教員は手ごたえを感じ、満足気に授業を終える笑。一方、不完全燃焼で悔しそうな理央笑。その後、理央は菊池に動画の時の「勢い」とは何かを菊池を捕まえて問いただそうと考えていたが、理央が気付いたころには菊池は爆速で逃げてその場を後にしており、菊池は捕まらなかった笑。授業途中に、彩音らは美優を連れて教室に戻り、教員はそのタイミングで注意などはしなかった。その後、美月に今日の範囲を三人に教えてあげてと言われ、美月は返事をしていた。美月は今日美優の家での食事の時に教える、と彩音らに言い、美優含めて三人は死んだ魚のような眼をしていやがった笑。ここまでをエピソードにして。」
月曜日・2限 数学系講義(続き)
――積極参加する教室、満足する教授、不完全燃焼の理央
美優が教室を飛び出したあと。
教室の空気は一瞬だけ静まり返った。
しかし、数学担当の教授は大きく騒がず、少し間を置いてから穏やかに言った。
「では、授業を続けましょう。」
教室も自然と講義モードへ戻っていく。
教授は黒板へ向き直る。
「では、ここまでの内容で質問です。」
理央の手が真っ先に上がる。
「はい。」
教授が頷く。
「九条さん。」
理央は立ち上がる。
黒板を見ながら、
途中式も含めてしっかり説明した。
教授は満足そうに笑う。
「はい。」
「その考え方で大丈夫です。」
「よく整理できています。」
理央は小さく頷く。
(よし。)
今日は絶対に存在感を見せる。
そう決めていた。
講義はさらに進む。
教授が少し難しい式を書いた。
「さて。」
「これは少し難しいですね。」
教室を見回す。
その瞬間。
後ろから原田の声。
「先生。」
「菊池くんなら分かると思います。」
菊池がゆっくり顔を上げた。
「……。」
(またか。)
そんな表情。
理央は腕を組む。
(見せてもらおうじゃない。)
完全にライバルを見る目だった。
菊池は前へ出る。
黒板を受け取る。
無駄な動きがない。
淡々と式を書く。
途中式。
整理。
証明。
「……以上です。」
教授は満足そうに頷いた。
「はい。」
「いいですね。」
「非常に分かりやすいです。」
「ありがとうございます。」
菊池は席へ戻る。
理央は悔しそうに唇を噛む。
(……くっ。)
見かけ上、
また一人、
自分より評価されたように感じた。
教授はその流れで教室を見回した。
理央がまた手を挙げようとする。
しかし。
教授の視線は違う方向へ。
「橘さん。」
「お願いします。」
理央の手が止まる。
(えっ。)
美月が静かに立ち上がる。
「はい。」
教授が問題を説明する。
「この考え方について。」
「別の証明方法はありますか?」
美月は少しだけ考えた。
「あります。」
そのまま黒板へ。
さらさら。
途中式。
説明。
「こちらから考えると……」
「この条件を先に使えるので……」
「最終的に同じ結果になります。」
教授は思わず笑顔になる。
「素晴らしい。」
「私が紹介しようと思っていた別解です。」
「非常にきれいです。」
教室も小さくざわつく。
理央はまた唇を噛む。
(また。)
(また美月。)
しかも。
さっき自分が褒められた時より、
教授の反応が明らかに大きい。
悔しい。
理央は負けじと手を挙げ続ける。
「はい!」
「先生!」
(次こそ。)
しかし教授は教室全体を見渡した。
「では。」
「工藤くん。」
工藤が少し驚きながら立つ。
「はい。」
問題を解く。
「はい。」
「いいですね。」
次。
別の学生。
また別の学生。
教授は一人だけに偏らないよう、
教室全体へ質問を振っていた。
理央ももう一度だけ当てられた。
しっかり答える。
教授も頷く。
「その通りです。」
しかし。
今日はそこまでだった。
チャイム。
教授は教卓を見渡す。
学生たちを見ながら満足そうに笑う。
(いい。)
(質問も増えた。)
(学生が参加している。)
ここ数週間、
授業改善を続けてきた成果を感じていた。
「今日はここまでです。」
「皆さん、お疲れ様でした。」
教授は上機嫌で教室をあとにした。
対照的に。
理央は机へ突っ伏す。
「……。」
不完全燃焼。
もっとアピールしたかった。
もっと答えたかった。
もっと評価されたかった。
そして。
思い出す。
「そうだ!」
勢いよく立ち上がる。
「菊池!」
「ちょっと!」
教室を見回す。
いない。
「え?」
原田が笑いをこらえる。
「あー。」
「もう食べに行った。」
「え?」
平野が笑う。
「講義終わった瞬間から。」
「爆速。」
畠中も頷く。
「逃げるのだけは速い。」
理央は教室の外を見る。
廊下にもいない。
「また逃げた……。」
肩を落とす。
「勢いって何なのよ……。」
結局、
この時間も答えは聞けなかった。
授業の途中。
教室の後方の扉が静かに開いた。
彩音。
真帆。
そして美優。
三人がそっと戻ってくる。
教授は一瞬だけ視線を向けた。
しかし何も言わない。
軽く頷くだけ。
「席についてください。」
それだけだった。
彩音たちはほっとして席へ戻る。
授業終了後。
教授は荷物をまとめながら美月へ声を掛けた。
「橘さん。」
「はい。」
「今日休んでしまった部分がありますから。」
「川崎さんたちに。」
「今日の範囲を教えてあげてもらえますか?」
美月はすぐ頷く。
「はい。」
「分かりました。」
教授も安心したように笑った。
「助かります。」
教授が教室を出る。
美月は彩音たちの方へ歩く。
「じゃあ。」
「今日。」
「美優ちゃんのお家で。」
「ご飯のあとにやりましょう。」
「今日の範囲、一緒に復習しましょう。」
彩音。
真帆。
美優。
三人そろって固まる。
「……。」
「……。」
「……。」
死んだ魚のような目。
彩音が力なく笑う。
「美月先生……。」
真帆も苦笑い。
「逃げられない……。」
美優も小さくため息をつく。
「……頑張ります。」
美月はきょとんとした顔で首を傾げる。
「そんなに難しくないですよ?」
その一言で、周囲から小さな笑いが漏れる。
橋本が遠くからその様子を見て笑った。
「始まった。」
健太も肩をすくめる。
「毎度恒例。」
「橘先生の放課後補習。」
直人が付け加える。
「しかも夕飯付き。」
坂井が笑う。
「それ、大学の授業より豪華なんだよな。」
教室には久しぶりに少しだけ明るい空気が戻っていた。美優の表情はまだ晴れなかったが、「今日は美月先生の補習がある」という半ば諦めにも似た空気が、重くなりすぎていた場をほんの少し和らげていた。
I「良いね。今度は美月らは学食へ。学年が違う楓花、菜奈美、優香も合流して豪華なメンバーに。その結果、周りが勝手にざわざわする。周りがいろんなことを言うが、話題は自然と、美月、楓花、菜奈美が話題になり、美優の名前は出ない。そこで学生の一人が、ミスコンに出る人が三人も集まってる、と興奮気味にいい、振り向いた美優に、「誰?」という。美優は勇気を振り絞って、川崎美優です、私もミスコンに出ます、よろしくお願いしますと言う。その学生はごめん知らなかった。今覚えた、頑張って。としゃべって美月に話しかけ、連絡先を聞こうとするがすぐ断られ、健太らの笑いのネタになっていた。美優は私も頑張ってるのに、なんで、と口にしてその場で泣いてしまう。そこで混乱に乗じて奇声を放った男性が美月に突っ込んで、美月はとっさにジャンプしてかわし (アクロバット的な動き)、男性が壁にぶつかって盛大にぶつかって倒れる笑。美月の動きに周りは意識が向き、美優が泣いているのを気にしているのは、彩音ら友達だけのよう。美優は、みんな自分のことを見てない、といって更に泣く。横で見てた原田らがその男性の前に出てきて、動画を撮り、顔と身分証を動画にアップしていた。男性は盛大に鼻血を出して伸びている笑。どうやら経済学部2年の学生だったようだ。学生証がしっかり撮影される。原田らがその学生をつついて起こし、なんでこんなことやったの?と質問。その学生は、注目されたかったと答えた。その学生が逃げようとするが平野らに捕まって、原田らがアップしたサイトにその男性が上がっている例が16件あったので、これは何?と問い詰める。ここで大学側の職員がやってきて、その男性を連れていく。そのころ、この男性がこういうことになったことを姫華が報告を受け、バツが悪そうな顔をしている。ここまでをエピソードにして。」
月曜日・昼休み
学食――「豪華すぎる昼食メンバー」
二限が終わると、
「お昼行こ。」
美月が自然に立ち上がる。
健太、橋本、彩音、真帆、美優、直人、坂井。
そこへ――
「橘さん。」
菜奈美と優香がやって来た。
さらに、
「おー、お昼?」
楓花まで合流する。
橋本が笑う。
「今日はすごいメンバーだな。」
学食へ向かう一団。
自然と人目を集める。
「え、あれ……。」
「楓花さん。」
「橘さんもいる。」
「朝倉さんも。」
「あれ全員ミスコンじゃない?」
「豪華すぎる。」
周囲がざわつく。
誰かがスマホを構えようとして、
健太が軽く手を振る。
「写真はなしねー。」
「ご飯くらい普通に食べさせて。」
学生も
「あ、ごめん。」
と苦笑いした。
席へ着く。
周囲では、
ひそひそ声。
「橘さんってテレビのCMの子だよね。」
「歌もやばかった。」
「楓花さん去年惜しかったもんな。」
「朝倉さん復活して良かった。」
話題は自然に、
美月、
楓花、
菜奈美。
その三人へ集中していく。
その時。
一年生らしい男子学生が、
興奮した様子で友人を呼んだ。
「おい!」
「ミスコンの人三人いる!」
振り返る。
その視線の先には、
楓花。
菜奈美。
美月。
そして。
少し後ろにいた美優にも視線が向く。
男子学生は首を傾げた。
「……え?」
「その人は?」
空気が止まる。
彩音が思わず息をのむ。
真帆も美優を見る。
美優は震えていた。
でも。
今回は逃げなかった。
小さく息を吸う。
「……。」
「川崎美優です。」
声は震えている。
「私も……」
「ミスコンに出ています。」
「よろしくお願いします。」
男子学生は目を丸くした。
「あっ。」
「ご、ごめん!」
「知らなかった!」
少し慌てて笑う。
「今覚えた!」
「頑張ってください!」
美優は小さく頭を下げる。
「ありがとうございます。」
その男子学生は、
そのまま美月へ向き直る。
「橘さん!」
「よかったら連絡先――」
美月は即答だった。
「ごめんなさい。」
「交換していません。」
「友達以外とは。」
にこっと笑う。
それだけ。
男子学生は撃沈。
「ですよねー!」
周囲から笑い。
健太が腹を抱える。
「今日も一瞬だった。」
橋本も笑う。
「最速記録更新。」
直人が真顔で言う。
「コンマ何秒だった?」
坂井まで吹き出す。
「完全にオートガード。」
その場は笑いに包まれた。
しかし。
その横で。
美優は下を向いていた。
ぽつり。
「……私も。」
「頑張ってるのに。」
「なんで……。」
涙が落ちる。
ぽた。
ぽた。
彩音が肩へ手を置く。
「美優。」
真帆も寄り添う。
「大丈夫。」
だが。
美優は首を振る。
「違う……。」
「みんな……」
「私のこと見てない……。」
また涙が溢れた。
その瞬間だった。
「うおおおおお!!」
学食に奇声。
周囲が一斉に振り向く。
一人の若い男が、
ものすごい勢いで美月へ向かって走ってくる。
健太。
「危ない!」
しかし。
美月は。
一瞬だけ男を見る。
次の瞬間。
身体が勝手に動いていた。
トン。
軽く床を蹴る。
そのまま。
体操選手のように身体をひねる。
くるり。
空中で体勢を変え、
男の進路を外れる。
アクロバットのような回避。
男は止まれない。
「うわっ!!」
ドゴォン!!
壁へ激突。
そのまま盛大に転倒。
鼻血。
完全に伸びた。
学食中が静まり返る。
「……。」
「え?」
「今の何?」
「すげぇ……。」
「体操選手?」
「避け方おかしい。」
「CMの人運動神経もやばいの?」
周囲の注目は、
完全に美月へ。
美優を見る者は、
彩音、
真帆、
健太くらいだった。
美優はその光景を見て、
さらに泣いた。
「……。」
「ほら。」
「また。」
「誰も……。」
「私を見ない……。」
彩音が抱き寄せる。
「そんなことない。」
真帆も涙目だった。
その一方。
「はいはい。」
「お疲れさま。」
原田。
平野。
畠中。
三人が現れる。
原田はスマホを回す。
「さあ。」
「今日のお客様です。」
カメラが男を映す。
鼻血。
壁にもたれたまま動けない。
原田は財布から学生証を取り出した。
「経済学部二年。」
「○○さん。」
学生証もしっかり映る。
平野がつつく。
「起きろ。」
「おーい。」
男がうめく。
「いてぇ……。」
原田が笑う。
「何でやった?」
男はぼーっとしたまま答えた。
「……。」
「注目……」
「されたかった。」
周囲。
「えぇ……。」
「それだけ?」
「何それ。」
男は立ち上がり、
逃げようとする。
しかし。
平野が肩をつかむ。
「はい。」
「逃がさない。」
原田はスマホを操作した。
「ところでさ。」
「これ何?」
画面には、
彼らが運営する情報共有アカウント。
男の写真。
別角度。
別の日。
一覧。
「一致十六件。」
「全部お前っぽいけど。」
男の顔色が変わる。
「……。」
「いや……。」
「違……。」
畠中が笑う。
「言い訳苦しいな。」
そこへ。
大学職員が駆け込んでくる。
「こちらですか!」
原田が頷く。
「学生証あります。」
「動画もあります。」
「事情聞いてください。」
職員は男を立たせる。
「こちらへ来てください。」
男は観念したように連れて行かれた。
学食はようやく落ち着きを取り戻す。
その頃。
学内の別の場所。
白鳥姫華のスマホが震えた。
協力者からの短いメッセージ。
「失敗。」
「捕まった。」
「大学に連れて行かれた。」
姫華は画面を見つめる。
表情は崩さない。
だが、
口元だけがわずかに引きつる。
「……。」
(また。)
(失敗。)
(どうして……。)
拳をぎゅっと握る。
しかし次の瞬間には、
いつもの笑顔を作り直していた。
その頃、学食では美月が「大丈夫でしたか?」と職員に聞かれて「私は大丈夫です」とだけ答え、何事もなかったかのように席へ戻っていた。一方、美優は彩音と真帆に支えられながら涙を流し続けていた。騒動の中心にいながら、美優が一番苦しかったのは、「また誰も自分を見ていない」と感じてしまった、その心の痛みだった。
I「良いね。美月らは生物系の実習へ。原田らはにやにやしながら動画を上げたことを共有。経済2年の男性が美月に突っ込んで壁に激突し、その後顔と学生証を写され、16件出ていることを問われていることまでが収まっている。動画はこれまでのものよりバズっているようで、畠中らは面白がっている。先んじてアップした美優と菊池の対談動画と、美月と理央の対談動画もあったが、2年の学生の動画のほうが注目が高い。彼がなぜこういうことをしたのか、に注目が上がっているようだ。美優はかろうじて実習にやってきているような状態。今にも泣きそうな顔をしている。担当教員から、川崎さん大丈夫と聞かれ、大丈夫ですと答える。心配だからと女性TAがそばにスタンバイ。こんな風に見てほしいわけじゃないのにと美優の心の声。今回は細胞観察が入る学生実習。美優は彩音とのペアだが、なんとかやっている感じ。理央は菊池にまだ「勢いって何?」と絡んでいるが、授業に集中しようと注意される笑。今回は標本作成みたいな内容も含む。大体の面々が問題なくこなし、美優は失敗するがなんとか時間内に終える。美優は実習での自分は注目ではなくまるで介護だと再び実習後に泣いてしまう。そのころ、経済2年の学生は、なんでそれをやったかが教員から事情聴衆されていて、どうも先輩から圧をかけられた的なことを口にしたようだ。その三年の学生は、姫華とはサークルも被っておらず、直接のかかわりは大きくなさそうに見える。個人名はこの時点で発表されなかったが、学園祭の実行委員会にも共有される。原田らは楽しそう。ここまでをエピソードにして。」
月曜日・午後
生物学実習――「見られたい姿と、見られてしまう姿」
昼休みが終わる頃。
薬学実習棟へ向かう廊下では、原田たちが朝の騒動の続きを話題にしていた。
「アップしといたぞ。」
原田がスマホを掲げる。
畠中が笑う。
「今回の伸び方やばいな。」
平野も画面を覗き込む。
「コメント欄、ほとんど"何であんなことしたんだ?"ばっかだ。」
今回投稿された動画は、
学食で経済学部二年の男子学生が美月へ突進し、
美月が体操選手のような身のこなしでかわし、
壁へ激突。
その後、
学生証を映され、
「これ何? 十六件一致してるけど?」
と原田に問い詰められるところまで編集されていた。
今回はシリーズの中でも反響が大きかった。
コメント欄も、
「普通に事件じゃん」
「なんでこんなことした?」
「十六件って何?」
「裏で誰かいる?」
そんな内容ばかりだった。
逆に、
先に公開されていた
「川崎美優×菊池 対談」
「橘美月×九条理央 対談」
は良くも悪くも学生企画らしい再生数だったため、
今回の動画の勢いに完全に飲まれていた。
畠中は満足そうに笑う。
「やっぱ真相追う方がみんな見るんだな。」
原田は肩をすくめた。
「美優の動画もちゃんと見てほしいんだけどな。」
生物学実習室
今日のテーマは、
細胞観察と標本作製。
比較的穏やかな内容だった。
学生たちが準備を始める。
その中で、
美優だけが明らかに顔色が悪い。
担当教員が近付いた。
「川崎さん。」
「今日は大丈夫?」
美優は慌てて笑顔を作る。
「……はい。」
「大丈夫です。」
教員は完全には安心していない。
少し離れた場所にいた女性TAへ目配せした。
「今日は近くについてあげてください。」
「はい。」
女性TAは自然に美優たちの近くへ移動した。
その瞬間。
美優は胸が締め付けられる。
(違う……。)
(こんな風に見てほしいんじゃない。)
(心配されたいんじゃない。)
(ちゃんと頑張ってる人として見てほしいだけなのに……。)
それでも口には出さない。
「お願いします。」
小さく頭を下げた。
今回は彩音とのペア。
彩音は何も急かさない。
「ゆっくりでいいから。」
「一緒にやろ。」
美優は頷く。
「……うん。」
顕微鏡。
染色。
標本作製。
今日は競争ではない。
それでも、
手は震える。
失敗する。
「あ……。」
カバーガラスがずれた。
彩音は笑って言う。
「もう一回。」
「大丈夫。」
女性TAも優しく声を掛ける。
「焦らなくていいですよ。」
美優は必死にやり直す。
時間ぎりぎり。
なんとか標本は完成した。
一方。
理央は、
まだ諦めていなかった。
「菊池くん。」
「だから勢いって何?」
菊池は標本を作りながらため息。
「……授業。」
「集中。」
理央は腕を組む。
「答えてから。」
そこへ教員。
「九条さん。」
「私語はそこまで。」
「実習に集中してください。」
教室が少し笑う。
理央は少し赤くなる。
「……はい。」
菊池は小さく笑った。
美月はいつも通り。
淡々と作業。
染色。
切片。
標本。
無駄がない。
教員も一度だけ覗き込み、
「きれいですね。」
と一言だけ評価する。
美月は軽く会釈した。
「ありがとうございます。」
それだけだった。
全員が実習を終える。
提出。
片付け。
解散。
片付けが終わった瞬間だった。
美優はその場でしゃがみ込んだ。
彩音が驚く。
「美優?」
美優は涙をこぼす。
「私……。」
「今日も。」
「実習じゃなくて……。」
「介護されてるだけみたいだった……。」
女性TA。
教員。
彩音。
みんなが支えてくれる。
その優しさが、
逆につらい。
「違う……。」
「こんな風に見られたいんじゃない……。」
泣きながら何度も繰り返した。
彩音は何も否定しない。
ただ背中をさする。
「今日は来ただけでも十分。」
真帆も静かに寄り添う。
「ちゃんと最後までやったじゃん。」
美優は首を振る。
「違うの……。」
「私は……。」
「ちゃんと一人でやれる人になりたい……。」
その声は震えていた。
同じ頃――大学本部
学食で騒ぎを起こした経済学部二年の男子学生は、
教職員室で事情聴取を受けていた。
「なぜあんなことを?」
男子学生はしばらく黙っていた。
やがてぽつりと話す。
「……先輩に。」
「圧を掛けられて……。」
担当教員が顔を上げる。
「先輩?」
「……。」
「三年です。」
それ以上はなかなか話さない。
教員が慎重に聞き取りを続ける。
話を整理すると、
その三年生は姫華とは同じサークルではない。
直接頻繁に行動していた人物にも見えない。
現時点では、
姫華との明確な接点は確認できない。
だからこそ、
教員側も断定できなかった。
しかし、
「三年生から何らかの圧力を受けた」
という証言だけは正式に記録される。
この内容は大学執行部だけでなく、
学園祭実行委員会にも共有された。
「現時点では個人名は公表しない。」
「ただし継続調査を行う。」
という方針が決まる。
夕方。
その報告を受けた実行委員会。
千佳は資料を閉じる。
「……また三年。」
林も腕を組む。
「偶然とは思えなくなってきた。」
だが証拠はまだ足りない。
誰も名前を出せない。
一方その頃。
原田、平野、畠中の三人は、
まるで推理ゲームでも楽しむような顔で顔を見合わせていた。
原田がにやりと笑う。
「面白くなってきた。」
畠中も頷く。
「尻尾は見え始めてる。」
平野が静かに言う。
「でも決定打はまだ。」
原田はスマホを回しながら笑う。
「焦るな。」
「逃げる奴は、最後に必ずミスする。」
三人はどこか楽しそうだった。
その一方で、美優は実習室の廊下で彩音と真帆に支えられながら涙をぬぐっていた。彼女の戦いは、順位だけではなく、「誰かに守られる存在」から「自分の足で立てる存在」になれるかという、自分自身との戦いでもあった。
I「良いね。ここで健太らが、美優に気分転換にフットサルに出てみたら、と聞いてみる。この日は美月も来る日だし、楓花もいるしで、美優がくるなら、彩音、真帆も気分転換になるかもしれない、と提案してみる。美優は出る、という。生物学の実習の後、講義を挟んで、美優はフットサルの練習へ。準備してないので、彩音らとともに、貸出用の装備に着換える。ここで美月はまたアスリートのような装いで現れる笑。一緒にアップして、美月の動きに驚く美優。美優は、アップで美月を追いかけるが全く追いつけない、スピード、経験、キレがまるで違う (それは動ける人のそれと運動をこれまでしてこなかった人のそれなので違って当然)。雑談のなかで、美月が40ヤード走が5秒1なことがシェアされる。そりゃ国体に選ばれるよなみたいな声が上がる笑。美月は男性たちのチームでプレイ。やっぱり視野の広さ、切り返しが上手いし、緩急の動きが凄い。対して美優は女性陣と和気あいあいとやっていた。競技的な感じではなく、楽しむように。たまに彩音が笑いをとるなどして場を和ませたりして、美優は気分転換になっているようだ。合間に給水で美月のほうを見て、やっぱり下を向くが、楓花らに話しかけられる。その後、美優はサ界の練習タイムに入り、美優はサークルのメンバーとの会話を楽しんでいた。あまり陰口を言われる感じではないので、雰囲気はよさそう。彩音らは胸をなでおろしてほっとしていた。そのころ、姫華は理央とすれ違い、理央に白鳥さん丈夫ですか(経済2年の件)と牽制され、姫華は優等生解答をしてその場を後にする。裏で女の闘いみたいな感じになっていた笑。ここまでをエピソードにして。」
月曜日・放課後
「気分転換、してみない?」
生物学実習を終えたあと。
廊下を歩く美優は、まだ少し目が赤かった。
健太が少し考えてから口を開く。
「……川崎。」
美優がゆっくり顔を上げる。
「今日さ。」
「フットサル来ない?」
「え?」
彩音も続けた。
「美月も今日来るし。」
「楓花さんもいるよ。」
真帆も頷く。
「競技じゃなくて、みんなで体動かすだけ。」
「気分転換になるかもしれない。」
健太が笑う。
「貸し出し用のウェアもあるし。」
「彩音たちもいる。」
「嫌だったら途中で帰ってもいい。」
しばらく黙っていた美優。
数秒後、小さく答えた。
「……行く。」
彩音と真帆が顔を見合わせる。
「よし。」
「決まり!」
放課後・体育館
講義を一つ終え、
四人は体育館へ。
貸し出し用のウェアを受け取り、
更衣室へ入る。
美優は慣れないフットサルシューズを履きながら苦笑した。
「こんなの初めて……。」
彩音が笑う。
「私も最初そうだった。」
真帆も靴紐を結ぶ。
「転ばなければ勝ち。」
三人で笑った。
体育館へ出ると、
ちょうど美月たちも来ていた。
そして、
美優は思わず立ち止まる。
「……。」
美月は今日も完全にスポーツ仕様だった。
長袖のコンプレッションインナー。
ハーフパンツ。
ロングスパッツ。
髪は高めのポニーテール。
無駄なアクセサリーは一切ない。
ノーメイク。
本当に競技者そのものだった。
健太が笑う。
「今日はアップから入るよー。」
全員でランニング。
美優も彩音たちと一緒に走り始める。
そして、
美月が前へ出る。
「じゃあ少しペース上げます。」
その瞬間。
スッ。
加速。
「え?」
美優は慌てて追う。
しかし。
距離が縮まらない。
むしろ、
少しずつ離される。
(速い。)
(何これ。)
(同じ女の子……?)
コーナーでの切り返し。
減速。
再加速。
全部が滑らかだった。
美優は息が上がる。
「はぁ……。」
「はぁ……。」
彩音も笑いながら肩で息をする。
「これ無理!」
真帆も苦笑。
「速すぎ!」
給水時間。
サークルの誰かが雑談していた。
「そういや橘さんって40ヤード何秒?」
橋本が答える。
「五秒一。」
「は?」
空気が止まる。
「五秒一?」
「女子で?」
健太が笑う。
「だから県選抜なんだって。」
別の男子が納得したように頷く。
「それなら国体呼ばれるわ。」
「むしろ納得。」
「身体能力がおかしい。」
美月本人は水を飲みながら首を傾げる。
「高校の先生がいっぱい教えてくれたので。」
「……。」
周囲。
(本人は普通に言う。)
(そこじゃない。)
(そこじゃないんだ。)
体育館中が苦笑していた。
その後、
ゲーム形式へ。
美月は当然のように男子チーム。
橋本と同じコート。
男子相手でも、
全く萎縮しない。
ボールを受ける。
一歩目。
フェイント。
切り返し。
視線一つで相手を動かし、
狭い隙間へパス。
「うわ。」
「あそこ通す?」
「見えてたの?」
誰かが声を漏らす。
派手な技はない。
だが、
プレーの質が高い。
視野。
判断。
緩急。
全部が自然だった。
男子がボールを奪いに行く。
かわされる。
「あ。」
軽く体勢を崩す。
また笑いが起きる。
橋本が嬉しそうだった。
「やっぱ面白いな。」
一方、
美優は女子チーム。
彩音。
真帆。
楓花。
他の女子メンバー。
こちらは競技というより、
楽しむ雰囲気。
「パス!」
「ごめーん!」
彩音が盛大に空振り。
「あー!」
体育館に笑いが響く。
真帆がツッコむ。
「彩音またやった!」
「今の芸術点高い!」
皆が笑う。
美優も思わず吹き出した。
「ふふっ。」
久しぶりだった。
自然に笑ったのは。
休憩。
給水。
美優は自然と男子コートを見る。
美月がまた一本、
見事なパスを通していた。
歓声が上がる。
(やっぱり……。)
(すごい。)
また少しだけ下を向く。
その時だった。
「川崎ちゃん。」
顔を上げる。
楓花だった。
「どう?」
「楽しい?」
美優は少し戸惑いながら答える。
「……はい。」
楓花は笑う。
「最初はそれでいいんだよ。」
「勝ち負けじゃなくて。」
「楽しめれば十分。」
その笑顔に、
美優も少し肩の力が抜けた。
やがて、
フットサルは一区切り。
今度はサ界の練習時間になる。
健太たちが機材を出し始める。
「よーし。」
「ライブモード!」
美優はサークルのメンバーと自然に雑談していた。
「この前の歌すごかった!」
「本番楽しみ!」
「今日も見学していい?」
誰も順位の話をしない。
誰も陰口を言わない。
音楽。
学園祭。
そんな話ばかりだった。
彩音はその様子を見て、
小さく息を吐いた。
「……よかった。」
真帆も胸を撫で下ろす。
「今日は笑ってる。」
健太も微笑む。
「連れてきて正解だったな。」
同じ頃――キャンパスの別棟
理央は廊下を歩いていた。
向こうから、
白鳥姫華が取り巻きと歩いてくる。
すれ違う瞬間。
理央が立ち止まる。
「白鳥さん。」
姫華も笑顔を作る。
「九条さん。」
理央は穏やかな口調で言う。
「経済二年の件。」
「大丈夫ですか?」
一瞬だけ。
姫華の目が細くなる。
だが、
すぐに営業用の笑顔へ戻った。
「ありがとうございます。」
「私もとても心を痛めています。」
「皆さんが安心して参加できる学園祭になることを願っています。」
完璧な優等生回答。
理央も微笑む。
「そうですよね。」
「お互い頑張りましょう。」
「ええ。」
二人はそのまますれ違う。
笑顔のまま。
しかし、
互いに振り返ることはなかった。
廊下には何事もなかったような空気が流れていたが、その場にいた学生の何人かは、二人の間に漂う静かな緊張感を感じ取っていた。
それは怒鳴り合いでも口論でもない。
表向きは礼儀正しく、内心では一歩も譲らない。
そんな、静かな「女の戦い」が始まっていた。
次回:
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