OL佐藤由奈さん編_メイキング6_エピソード16、心はまだ揺れているけれど、逃げるほどではない。
前回は、由奈が初恋の人と同じ場所にいたけれど、お互いを認知しはすれどすれ違った場面を描きました。それを受けての由奈の心の揺れみたいなものを表現します。
I「エピソードの続きを考えて。家に帰った由奈、この後家族とどんな会話をする?おそくなったから、多分家族は由奈が何をしたのかを聞くと思うし、由奈も心配させないような会話をすると思う(実際に何があったかをいうかどうかは別にして)。」
A
由奈が家に戻ったのは、夕方を少し回った頃だった。
玄関の引き戸を開けると、台所から包丁の音と、出汁の匂いが流れてくる。
「ただいま」
少しだけ声を張って言うと、母が振り返った。
「あら、おかえり。思ったより遅かったわね」
「うん、ちょっと散歩が長くなって」
靴を脱ぎながら答える声は、なるべくいつも通り。
母は由奈の顔を一度見て、深くは追及しなかった。
「暑くも寒くもなくて、歩きやすい日だったでしょ」
「うん、風が気持ちよかった」
そのやり取りを聞いていた父が、居間から声をかける。
「喫茶店にも寄ったのか?」
「うん、少しね。コーヒー飲んでただけ」
嘘ではない。
ただ、全部は言っていないだけだ。
父は新聞を畳みながら言う。
「顔、そんなに疲れてないな」
「歩いたら、逆にすっきりした」
それもまた、本当だった。
由奈は洗面所で手を洗い、居間に入る。
弟はまだ外出中で、家の中は静かだ。
「何かあった?」
母が、火を弱めながら、あくまで軽い調子で聞く。
由奈は一瞬だけ間を置いてから、こう答えた。
「ううん。いろいろ考えただけ」
母はそれ以上聞かず、頷いた。
「そういう日もあるわね」
「うん」
由奈は座布団に腰を下ろし、湯のみを手に取る。
温かさが、ゆっくりと指先に伝わってくる。
(言わなくていいこともある)
心配させないためではなく、
まだ自分の中で言葉になっていないから。
父がふと思い出したように言った。
「今日は外で夕飯、食べてきたのか?」
「いや、家で食べる。お腹空いた」
その返事に、母が少しだけ安心したように笑う。
「じゃあ、もう少しでできるから」
「手伝おうか?」
「いいのよ、座ってて」
由奈は頷き、背もたれに軽く体を預けた。
家族の会話は、天気のこと、近所のこと、
弟が何時頃帰るか――そんな、取り留めのない話に流れていく。
由奈はその中に身を置きながら思う。
(今は、これでいい)
全部を話さなくても、
黙っていても、
この家では、ちゃんと居場所がある。
夕方の静かな時間が、
由奈の中で、少しずつ今日を終わらせていった。
I「描いて、佐藤家の晩御飯と、ご飯を食べる由奈。由奈大きめで、他の家族はいることがわかるくらいで目立たせず。今回は弟も踏まえた4人で囲む食卓。弟の結婚の報告の話が前日だったので、食事はいつもの佐藤家の食卓といった感じ。特段豪華でも手抜きでもなく、いつも通りのご飯が並ぶ。」
I「この後由奈は食後に家で弟と会話する。どうやら佐々木 恒一子は弟と面識があって、気になって佐々木 恒一子から弟に連絡したらしい。佐々木 恒一子からは、懐かしい面々が6人も同じ場所に会したのに、特に話すことなく由奈が返ったものだから、何かあったのかなと考えたらしい。佐々木 恒一子は男癖は悪いが、悪い奴ではない。ちなみに佐々木 恒一子と由奈の弟は恋愛関係になったこともなく、体の関係を持ったこともなく、単に知り合いの知り合いとしてつながった関係。これを踏まえて夕ご飯のあとの由奈と弟の会話をかいて。文章で。」
A
食後、台所で食器の音が落ち着いた頃、由奈は縁側寄りの居間でお茶を飲んでいた。
少し遅れて、弟が隣に腰を下ろす。
「ねえ、姉ちゃん」
呼びかけ方が、少しだけ探るようだ。由奈は湯のみを置いて顔を向ける。
「なに?」
「今日さ……佐々木 恒一子さんから連絡きた」
その名前を聞いて、由奈の眉がほんのわずかに動く。
「……ああ」
「やっぱ知ってるよね」
弟は苦笑いをして続ける。
「喫茶店で会ったんだって? 懐かしいメンバーが何人もいたって」
「いたね」
由奈の返事は短い。弟はそれを責めるでもなく、少し言葉を選ぶ。
「恒一子さんさ、
『由奈がすぐ帰っちゃったから、なんかあったのかなって』って」
由奈は一瞬、視線を落とす。
それから、正直に言った。
「……別に、大したことじゃないよ」
「うん」
「ちょっと、苦手な人たちが重なっただけ」
「そっか」
弟はそれ以上、深掘りしない。
姉がそう言うときは、本当に説明したくないわけではなく、説明する言葉がまだ整っていないときだと知っている。
「恒一子さんさ、変な人だけど……悪気はないと思う」
「うん、それは分かってる」
由奈は小さく笑う。
「距離感が近いだけだよね。昔から」
「そうそう。俺にも急に連絡してくるし」
弟は頭をかきながら言った。
「『由奈、元気そうだった?』って聞かれた」
「なんて答えたの?」
「『元気そうだったと思う』って」
その答えに、由奈は少しだけ息を抜いた。
「正解」
「だよな」
しばらく、二人の間に静かな時間が流れる。
庭の虫の声が、夜の空気に溶けていく。
弟が、ぽつりと言った。
「姉ちゃんさ」
「うん?」
「無理に、全部説明しなくていいから」
由奈は驚いたように弟を見る。
「……どうしたの、急に」
「俺さ、結婚の話するって決めたけどさ」
弟は少し照れくさそうに笑う。
「それでも、分からないこと多いし、
決めきれない気持ちもあるんだよね」
由奈は、その言葉を静かに受け取る。
「だからさ。姉ちゃんが迷ってても、全然普通だと思う」
「……ありがと」
弟は肩をすくめる。
「佐々木 恒一子さんの件もさ、
気になるなら、気になるでいいと思うし」
由奈は首を振った。
「気になる、っていうより……思い出しただけ」
「それも、普通」
その一言が、由奈の胸にやさしく落ちた。
「ねえ」
「ん?」
「今日はさ、もう休みなよ。歩いたんでしょ」
「……そうする」
由奈は湯のみを持ち上げて、少しだけ笑った。
家族の中で、
説明しなくてもいい会話ができること。
それが、今夜の由奈には、何よりありがたかった。
I「その後、由奈は風呂に入り、パジャマに着換えた。その後由奈家では何をする?翌日の昼に家を出発して東京に戻るつもり。明後日由奈は仕事。」
A
風呂から上がった由奈は、髪を軽く拭いてからパジャマに着替えた。
実家のパジャマは、少し色あせていて、東京の部屋で着ているものよりゆったりしている。袖を通しただけで、体の力が抜けるのを感じた。
居間に戻ると、父はテレビで静かなドキュメンタリー番組を見ていて、母はソファの端で洗濯物をたたんでいる。弟はスマホを片手に、時々画面を見ては考え込むような顔をしていた。
由奈は、ソファの空いているところに腰を下ろす。
「もう一回、お茶飲む?」
母が聞く。
「うん、少し」
湯のみを受け取り、由奈は両手で包む。
テレビの音量は小さく、誰も積極的に会話をしようとはしない。けれど、沈黙が気まずいわけでもない。
父がふと思い出したように言う。
「明日は昼に帰るんだったな」
「うん。お昼過ぎの電車で」
「じゃあ午前中はゆっくりできるな」
由奈は頷く。
「洗濯物、朝のうちにまとめちゃおうかなって思って」
「それなら、早めに回そうか」
母はそう言って、洗濯物を脇に置いた。
その後は、それぞれがそれぞれの時間を過ごす。
父は番組が終わるとテレビを消し、新聞を読み始める。
弟はスマホで恋人と短いメッセージのやり取りをしている様子だが、内容までは見せない。
母は明日の朝食の段取りを考えながら、台所を軽く整えている。
由奈は、ソファにもたれて、ぼんやり天井を見上げた。
(明日、東京に戻るんだな)
思ったより、寂しさはない。
でも、少しだけ名残惜しい。
この家で過ごす時間が、今の自分にとって「立ち止まるための時間」だったことを、由奈ははっきり自覚していた。
夜も遅くなり、母が声をかける。
「そろそろ、休もうか」
「うん」
由奈は歯を磨き、自分の部屋に戻る。布団に入る前、スマホを手に取って少しだけ迷い、結局何も触らずに画面を伏せた。
明日は、移動の日。
考え続ける日ではなく、いったん区切る日。
由奈は布団に潜り込み、深く息を吐く。
(仕事は、明後日から)
そう思うと、気持ちが少し整った。
眠りに落ちる直前、由奈の頭の中には、今日一日の出来事が静かに並んでいたが、どれももう、急いで答えを出す必要はなかった。
実家の夜は、変わらず静かに更けていった。
コメント
コメントを投稿